窓がない家の方が、なぜ明るいのか
窓のない壁の向こうに、光が満ちている。
外から見ると、壁ばかりの家。窓がどこにあるのか分からない。
こういう家の写真を見て「かっこいい」と思いながら、同時に「でも中は暗いだろうな」と考える。ごく自然な反応だと思います。
ところが実際に中に入ると、たいてい予想が外れます。想像よりずっと明るい。
理由は単純です。光を入れる場所が、外から見える位置にないだけ。
明るさを決めているのは、窓の数ではありません。窓の位置です。そして光を入れるのに一番効率がいい位置は、多くの人が思っているところとは違います。
この記事では、その「位置」の話をします。
窓の少ない家が増えている理由

窓を減らした家が増えているのは、見た目の流行だからではありません。実際に暮らしが変わる部分があります。まずそこを押さえておきます。
カーテンを開けたまま暮らせる

新築の写真で、リビングのカーテンが全開になっているものをよく見ます。実際に住み始めると、その多くは閉じたままになります。
道路に面していれば通行人の目が入る。隣家と向かい合っていれば、お互い気を使う。夜になれば、室内が丸見えになります。
結果、日中もレースカーテンを引きっぱなし。せっかくの大きな窓が、半分しか働いていない状態です。
外周に窓をつけなければ、この問題そのものが消えます。中庭やテラスに向いた窓は、誰からも見えません。開けたまま暮らせます。
窓を減らすのは、閉じるためではありません。開けられる窓だけを残すためです。
熱が逃げるのは、壁ではなく窓から
家の断熱を考えるとき、多くの人が壁や屋根を思い浮かべます。実際に熱が出入りしているのは、その大半が窓です。
壁の中には断熱材が入ります。窓には入りません。ガラスとサッシで性能を上げることはできても、断熱材の入った壁にはかないません。
窓が大きいほど、夏は熱が入り、冬は熱が逃げる。エアコンが効きにくい家は、たいていどこかに大きな窓があります。
窓を壁に置き換えれば、その分だけ性能は上がります。
ただ、これは「窓は少ないほどいい」という話ではありません。光も風も必要です。どこを閉じて、どこを開けるか。その配分が設計そのものです。
「窓を減らすと暗くなる」は、条件つきで正しい
ここまでは、よく言われることです。そして多くの場合、このあとに但し書きがつきます。
「ただし窓が少ないと暗くなるので、注意しましょう」
この但し書きは、条件つきで正しいです。条件を外せば、成り立ちません。
暗くなるのは「減らして終わり」にしたとき
窓を減らすと暗くなる。これは、減らしただけで終わったときに起こります。
外観を優先して正面の窓をなくす。すると窓は残りの3面に集まります。部屋によっては1方向からしか光が入らなくなり、奥まで届かない。
原因は「窓を減らしたこと」ではありません。「減らしたあとに、どこから入れるかを決めなかったこと」です。
引き算だけで終われば暗くなります。減らした分をどこで取り戻すかまで設計すれば、暗くなりません。
多くの記事が「窓が少ない家は暗くなりやすい」と書くのは、この後半部分が省かれた前提で話しているからです。
太陽は、思っているより上にある
ここが一番の分かれ道です。
窓の位置を考えるとき、多くの人は「南に大きく」と考えます。この発想の前提には、光が横から入ってくるというイメージがあります。
実際には違います。
太陽が真横から差してくるのは、朝と夕方のごく短い時間だけです。それ以外の時間帯、太陽はずっと斜め上にあります。夏はほぼ頭上に近く、冬でも見上げる位置にあります。
つまり日中の大半、光は上から降ってきています。

太陽の高さは季節で変わる。それでも光は、上から入れば奥まで届く。
この図は、季節によって太陽の高さがどう変わるかを描いたものです。注目してほしいのは、太陽の位置が最も低くなる冬至でも、上から入った光が家の奥まで届いているところです。
高い位置から入った光は、天井や壁に当たって跳ね返り、部屋の奥へ回っていきます。腰の高さの窓から入った光が床の手前で止まるのとは、届く距離がまるで違います。
そして高い位置の窓には、もうひとつ利点があります。人の視線とぶつかりません。隣家の窓とも、道路とも高さが合わない。カーテンが要らなくなります。
光は上から入れる。プライバシーの問題も、同時に片付きます。
光は、横からではなく上から入る
太陽が上にあるなら、光を受け取る場所も上に置けばいい。理屈としては単純です。
ただ、実際の家でこれをやろうとすると、いくつか方法があります。どれを選ぶかで、間取りも外観も変わります。
中庭は「憧れ」ではなく、光を落とす穴
中庭のある家は人気があります。写真映えもします。ただ、中庭を「憧れの空間」として先に決めてしまうと、たいてい持て余します。
中庭の役割は、建物の真ん中に光を落とす穴を開けることです。
家が大きくなるほど、外周から遠い場所ができます。廊下、洗面、家の中央にあるリビング。外壁に窓をつけても、そこまでは届きません。
そこで建物の内側に穴を開ける。上が空いているので、光は真上から入ってきます。しかも四方を自分の家で囲んでいるので、隣にも道路にも面していません。誰からも見えない。

窓のない壁に、上から光が落ちてくる。
この写真の壁には、窓が一つもありません。それでも明るい。光は横からではなく、上から入ってきています。壁に落ちた影の斜めの線が、その角度をそのまま写しています。
中庭に面した窓は、カーテンが要りません。開けたまま暮らせます。
順番が大事です。「中庭がほしい」から設計を始めると、光の要らない場所に中庭ができます。「ここに光を落としたい」から始めれば、中庭は答えとして出てきます。
高窓は、視線をよけながら光だけを通す
中庭ほど大がかりでなくても、光を上から入れる方法があります。壁の高い位置に窓をつけることです。
高窓の利点は2つあります。
ひとつは、光が奥まで届くこと。高い位置から入った光は天井に当たり、そこで散らばって部屋全体に回ります。腰高の窓から入った光が床の手前で止まるのとは、届く範囲が違います。
もうひとつは、視線とぶつからないことです。人の目の高さは、床から1.5メートル前後。窓をそれより上に置けば、外を歩く人とも、隣家の窓とも高さが合いません。
外から見ると、壁のように見えます。中にいると、明るい。窓がないように見える家の正体は、たいていこれです。
壁は、視線を切るために立ち上げる
中庭も高窓も、隣家との関係で成り立たなくなることがあります。隣の2階の窓がこちらを見下ろす位置にあれば、中庭は上から丸見えになります。
このとき、壁を使います。
建物の外周に、屋根より高い壁を立ち上げる。あるいは中庭を囲う壁を、隣家の視線が通らない高さまで上げる。すると視線は壁で止まり、光だけが上から入ってきます。
外から見ると、この壁が「窓のない大きな面」として見えます。デザインのために立てているように見えて、実際には視線を切るための壁です。
隣家との距離が近いほど、この手が効きます。土地の条件が悪いほど、設計で差がつくのはこのためです。
どの方法を選ぶかは、土地で決まる
中庭、高窓、壁。3つとも「上から光を入れる」という点では同じです。どれを使うかは、土地を見ないと決まりません。
北側に平屋が建っているのか、3階建てのアパートが建っているのか。道路がどちら側にあるのか。将来、隣の空き地に家が建つ可能性はあるのか。
同じ広さの土地でも、これらが違えば答えが変わります。逆に言えば、土地を見ずに「この間取りがおすすめです」と言うことはできません。
日当たりが悪いと言われた土地でも、光の入れ方はたいてい残っています。方角ではなく、周りに何が建っているか。見るべきはそちらです。
建築家が設計した3棟
ここまで、光を上から入れる方法を3つ挙げました。中庭、高窓、立ち上げた壁です。
実際の家では、これらが組み合わせて使われます。どの土地でも同じ答えになるわけではありません。3棟とも中庭と高窓を使っていますが、力点の置き方はそれぞれ違います。


光が上下に回る、気配のつながる家。
白い壁と木の質感が対比する、多層構造の住まいです。床の高さが場所ごとに変わる構成のため、光が一方向から入るだけでは、下の階層まで届きません。そこで中庭と高窓の両方を使い、上から落とした光を各層に回しています。外周には壁を立ち上げ、視線を遮っています。閉じた外観に対して、内側は上下がつながり、家族の気配が伝わる空間になっています。
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窓のない壁に、上から光が落ちてくる。
記事の前半で紹介した中庭の写真は、この家のものです。バルコニーを囲う外壁を高い位置まで立ち上げているため、外からの視線が入りません。壁には窓が一つもなく、光はすべて上から入ってきます。壁に落ちた斜めの影が、その角度をそのまま写しています。名作と呼ばれる家具が置かれた室内は、美術館のような静けさがあります。壁の多い家は、家具の置き場所を選びません。
この家を見る

小さな庭が、家じゅうに光を配る。
道路側にはほとんど窓がありません。それでも室内は明るく保たれています。光を受け持っているのは、建物の内側にある坪庭です。中庭ほどの広さはなくても、上が空いていれば光は落ちてきます。坪庭を囲う回廊がその光を各部屋へ運び、家全体に行き渡らせています。北欧のインテリアが似合う、穏やかな明るさの住まいです。
この家を見るよくある質問
窓の少ない家について、相談の場でよく聞かれることをまとめました。土地の条件によって答えが変わるものもありますが、考え方の部分をお伝えします。
隣の家が近くて日当たりが悪い土地でも、明るい家は建てられますか
多くの場合、建てられます。
「隣が近いから暗い」と思われがちですが、正確には隣の家との距離ではなく、隣の家の窓や壁がどの高さにあるかが問題です。
隣が平屋なら、その屋根の上は空いています。2階建てでも、こちら側に窓がなければ視線は気になりません。逆に距離が離れていても、正面に3階建てが建っていれば影は落ちます。
見るべきは「何メートル離れているか」ではなく「周りに何が、どの高さで建っているか」です。
そのうえで、光が残っている方向から上向きに窓を取る。壁を立ち上げて視線を切る。方法はいくつかあります。土地を見せていただければ、どの手が使えるかをご説明します。
窓を減らすと、換気が心配です
窓の数と換気は、直接つながっていません。
2003年以降に建てられる住宅は、24時間換気設備の設置が建築基準法で義務づけられています。窓を開けなくても、空気は常に入れ替わり続けています。窓が多い家でも少ない家でも、この点は同じです。
そのうえで「風を通したい」という話であれば、必要なのは窓の数ではなく窓の位置関係です。
風は、入口と出口があって初めて通ります。同じ壁に窓を2つ並べても、空気はほとんど動きません。対角線上や、高さの違う2箇所に開口があれば、少ない窓でも風は抜けていきます。中庭がある家は、中庭側と外側で対になるので、風の通り道をつくりやすい形です。
中庭をつくると、建築費は上がりますか
同じ延床面積で比べれば、上がります。
理由は形にあります。四角い箱に比べて、中庭のある家は外壁の面積が増えます。外壁材も断熱材も窓も、その分だけ必要になります。中庭の床の仕上げや植栽も、建物本体とは別に費用がかかります。
ただ、比べる相手を変えると見え方が変わります。
日当たりを求めて南向きの土地を選べば、土地代が上がります。周囲を気にせず暮らせる広さを求めれば、面積が必要になります。中庭は、その両方を建物側の設計で解決する手段でもあります。
どちらが得かは、土地の価格と条件次第です。土地を探している段階であれば、そこも含めてご相談ください。
北向きの土地や、日当たりが悪いと言われた土地でも大丈夫ですか
方角だけで判断する必要はありません。
南向きの土地が好まれるのは、南に大きな窓をつける前提があるからです。ただ、その窓が道路や隣家と向かい合っていれば、結局カーテンを閉じることになります。高い土地代を払って、使えない窓を手に入れる形です。
光を上から取るなら、必要なのは南向きの敷地ではなく、上が空いていることです。北向きの土地でも、上には同じように空があります。
不動産会社に「条件が悪い」と言われた土地が、設計次第で問題なく建てられることは珍しくありません。むしろ価格が抑えられている分、建物に予算を回せます。
この話は別の記事で詳しくまとめています。
4D//STUDIO.MIKAWAの家づくりが「非常識」と言われる3つの理由
窓が少ないと、家具は置きやすくなりますか
置きやすくなります。
窓のある壁には、背の高い家具を置けません。ソファやベッドも、窓を塞がない位置を探すことになります。間取り図の段階では気づきにくく、住み始めてから「置き場所がない」となることがあります。
壁が多い家は、この制約がありません。本棚も、テレビも、絵も、置きたい場所に置けます。
設計の段階で家具の配置まで一緒に考えられると、この差はさらに大きくなります。
まとめ
窓がない家が暗いのではありません。窓を減らしたまま、光の入れ方を決めなかった家が暗いのです。
太陽は上にあります。だから光も、上から入れたほうが奥まで届く。中庭も、高窓も、立ち上げた壁も、そのための手段です。外から見て窓が見当たらない家は、光を受け取る場所を、外から見えない位置に移しただけです。
ただし、どの手が使えるかは土地によって変わります。北側に何が建っているか。道路がどちら側にあるか。隣家の窓はどの高さにあるか。条件が違えば、答えも変わります。
だから、一般論ではここから先に進めません。間取りの正解は、土地を見てから決まります。
日当たりが悪いと言われた土地でも、光の入れ方はたいてい残っています。まだ土地を決めていない段階でも構いません。

